ずんだもんと学ぶアナログ回路

第2回

チャネル長変調・出力抵抗と基板バイアス効果

アナログ回路入門シリーズ第2回です。実験レポートの特性グラフが、飽和領域なのに少し右上がり……その正体を探ります。

チャネル長変調を断面図で確かめ、出力抵抗 ro と「電流源∥ro」の等価回路、アーリー電圧、チャネル長 L との関係を解説します。roが増幅回路でなぜ大事なのか(固有利得 gm·ro)、先端プロセスで何が起きがちなのか、そして第1回で保留した基板端子の話(基板バイアス効果)まで扱います。

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  • 四国めたん(解説)
  • ずんだもん(質問)

1導入:実験レポートのグラフが右上がり?

ずんだもん

めたん、今度は実験レポートがピンチなのだ!飽和領域なのに、電流が増えたのだ。

動画の画面(「めたん、今度は実験レポートがピンチなのだ!飽和領域なのに、電流が増えたのだ。」の場面)
図 1

四国めたん

振り返りましょう。飽和領域のMOSFETは、VGSで電流が決まる電流源だったわね。

四国めたん:前回見た飽和領域のグラフも、VDSを上げると、少しだけ右上がりだったの。

動画の画面(「前回見た飽和領域のグラフも、VDSを上げると、少しだけ右上がりだったの。」の場面)
図 2

四国めたん

測定ミスではないわ。今日はこの傾きの正体と出力抵抗ro、基板バイアス効果を見ましょう。

動画の画面(「測定ミスではないわ。今日はこの傾きの正体と出力抵抗ro、基板バイアス効果を見ましょう。」の場面)
図 3

ずんだもん

よろしくなのだ!レポートの考察を書けるようにするのだ!

四国めたん

なお、ここで使う数値は、180 nm程度のCMOSを想定した説明用の値よ。

動画の画面(「なお、ここで使う数値は、180nm程度のCMOSを想定した説明用の値よ。」の場面)
図 4

四国めたん

前回の二乗則はID=½K·Vov²。係数Kは、μnCox·W/Lのことよ。

四国めたん:Wはチャネルの幅、Lは長さ。このモデルでは、K=2 mA/V²、Vth=0.4 Vにしてあるわ。

動画の画面(「Wはチャネルの幅、Lは長さ。このモデルでは、K=2mA/V²、Vth=0.4Vにしてあるわ。」の場面)
図 5

2傾きを測ってみる

四国めたん

VGSを1.2 Vに固定して、VDSを1.0 Vから1.5 Vに上げてみるわ。

動画の画面(「VGSを1.2Vに固定して、VDSを1.0Vから1.5Vに上げてみるわ。」の場面)
図 6

ずんだもん

IDが0.704 mAから0.736 mAに増えたのだ。ちょっとだけなのだ。

動画の画面(「IDが0.704mAから0.736mAに増えたのだ。ちょっとだけなのだ。」の場面)
図 7

四国めたん

増え方は5%足らず。でも増幅回路では、この差が効いてくるの。

ずんだもん

理想の電流源なら、VDSを変えても電流は変わらないはずなのだ。

四国めたん

そうね。この傾きは、電流源としての「不完全さ」を表しているのよ。

動画の画面(「そうね。この傾きは、電流源としての「不完全さ」を表しているのよ。」の場面)
図 8

3原因:ピンチオフ点が動く

ずんだもん質問

でも前回、飽和領域では平らになるって習ったのだ。どうして傾くのだ?

四国めたん

断面に戻りましょう。飽和領域では、ドレイン端でチャネルが途切れていたわね。

動画の画面(「断面に戻りましょう。飽和領域では、ドレイン端でチャネルが途切れていたわね。」の場面)
図 9

四国めたん

このピンチオフ点の電位は、ソースから見てVovに保たれるの。

四国めたん:VDSのうち、それを超えた分は、ピンチオフ点とドレインの間にかかるのよ。

四国めたん:VDSを上げると、このすき間が広がって、ピンチオフ点がソース側へ動くの。

ずんだもん質問

チャネルが短くなるのだ?

四国めたん

ええ。実効的なチャネル長が、少しだけ短くなる。これがチャネル長変調よ。

動画の画面(「ええ。実効的なチャネル長が、少しだけ短くなる。これがチャネル長変調よ。」の場面)
図 10

ずんだもん質問

チャネルが短くなると、どうして電流が増えるのだ?

四国めたん

チャネルにかかる電圧はVovのまま、長さだけが短くなるからよ。

四国めたん:IDはW/Lに比例するから、Lが縮めばIDは増えるの。

4式で表す:ID ≈ ½KVov²(1+λVDS)

四国めたん

IDは1/Lに比例するから、Lが少し縮むと、IDは縮んだ割合の分だけ増える。簡単のため、この割合はVDSに比例するとみなして、二乗則に(1+λVDS)をかけるの。

動画の画面(「IDは1/Lに比例するから、Lが少し縮むと、IDは縮んだ割合の分だけ増える。簡単のため、この割合はVDSに比例するとみなして、二乗則に(1+λVDS)をかけるの。」の場面)
図 11

四国めたん

λはチャネル長変調係数。このモデルでは、λ=0.1 /Vにしてあるわ。

動画の画面(「λはチャネル長変調係数。このモデルでは、λ=0.1 /Vにしてあるわ。」の場面)
図 12
動かしてみようID–VDS 特性:飽和領域の右上がり

VDSを境界より右へ動かしても、IDは少しだけ増え続けます。この傾きの逆数が出力抵抗roです(チャネル長変調)。

5出力抵抗 ro と等価回路

四国めたん

VGSを固定したときの、飽和領域のこの傾きの逆数が出力抵抗roよ。ΔVDSをΔIDで割ったものね。

動画の画面(「VGSを固定したときの、飽和領域のこの傾きの逆数が出力抵抗roよ。ΔVDSをΔIDで割ったものね。」の場面)
図 13

四国めたん

回路図では、飽和領域のMOSFETを、D–S間の電流源とroの並列に置き換えるの。

四国めたん:電流源はVGSで決まる½KVov²。そこにroを流れるVDS/roが足されてIDになるわ。

動画の画面(「電流源はVGSで決まる½KVov²。そこにroを流れるVDS/roが足されてIDになるわ。」の場面)
図 14

ずんだもん

回路理論で習った、ノートンの等価回路みたいなのだ!

四国めたん

その通り。roが無限大なら理想電流源。roが大きいほど理想に近いのよ。

動画の画面(「その通り。roが無限大なら理想電流源。roが大きいほど理想に近いのよ。」の場面)
図 15

四国めたん

VDSで微分すると、傾きはλ・½KVov²。その逆数がroね。

四国めたん:λVDS≪1なら、IDは½KVov²とほぼ等しいから、ro≈1/(λID)と書けるの。

動画の画面(「λVDS≪1なら、IDは½KVov²とほぼ等しいから、ro≈1/(λID)と書けるの。」の場面)
図 16

四国めたん

VGS=1.2 VならVov=0.8 Vで、½KVov²=0.64 mA。roは1/(0.1×0.64)で、約16 kΩよ。

ずんだもん

さっきの測定でも、0.5 V÷0.032 mAで約16 kΩ。ぴったりなのだ!

動画の画面(「さっきの測定でも、0.5V÷0.032mAで約16kΩ。ぴったりなのだ!」の場面)
図 17

ずんだもん質問

でも、IDに実際に流れている0.72 mAを入れると、少しずれるのだ?

四国めたん

約14 kΩね。1割ほどずれるけど、手計算の目安としてよく使う式なのよ。

動画の画面(「約14kΩね。1割ほどずれるけど、手計算の目安としてよく使う式なのよ。」の場面)
図 18

ずんだもん質問

roは、流す電流によって変わるのだ?

四国めたん

ええ、roはIDにほぼ反比例。VGS=0.8 Vで電流が約1/4なら、roは約4倍の62 kΩよ。

動画の画面(「ええ、roはIDにほぼ反比例。VGS=0.8Vで電流が約1/4なら、roは約4倍の62kΩよ。」の場面)
図 19

四国めたん

λを変えて重ねてみましょう。roが大きいほど傾き1/roが小さく、平らになるの。

動画の画面(「λを変えて重ねてみましょう。roが大きいほど傾き1/roが小さく、平らになるの。」の場面)
図 20

ずんだもん

roが小さいと、右上がりが急になるのだ。

6アーリー電圧 VA

四国めたん

λは0.1に戻して、VGSの違う曲線の飽和領域の部分を、直線のままVDSが負の側へ延長してみましょう。

動画の画面(「λは0.1に戻して、VGSの違う曲線の飽和領域の部分を、直線のままVDSが負の側へ延長してみましょう。」の場面)
図 21

ずんだもん

どの線も、VDS=−10 Vの一点で交わったのだ!

四国めたん

このモデルでは、ちょうど一点になるの。この電圧の大きさがアーリー電圧VA=1/λよ。

四国めたん:VAを使うと、ro≈VA/IDとも書けるわ。VAが大きいほど、良い電流源ね。

動画の画面(「VAを使うと、ro≈VA/IDとも書けるわ。VAが大きいほど、良い電流源ね。」の場面)
図 22

7チャネル長 L とλ

ずんだもん質問

roを大きくするには、どうすればいいのだ?

四国めたん

一つの方法は、チャネル長Lを長くすることよ。

動画の画面(「一つの方法は、チャネル長Lを長くすることよ。」の場面)
図 23

四国めたん

ピンチオフ点が同じだけ動いても、もとのLが長ければ、縮む割合は小さいでしょう?

四国めたん:だから、Lを長くするとλは小さくなる傾向があるの。

動画の画面(「だから、Lを長くするとλは小さくなる傾向があるの。」の場面)
図 24

四国めたん

逆に、先端プロセスでLをとても短くすると、λが大きく、roは小さくなりがちなの。

8なぜ ro が大事か:固有利得 gm·ro

ずんだもん質問

そもそも、roが小さいと何が困るのだ?

四国めたん

トランジスタ1個の増幅回路で、負荷を理想電流源にすると、利得の大きさがgm·roになるからよ。

四国めたん:これを固有利得と呼ぶの。gmはVGSに対するIDの変化の割合で、次回くわしくやるわ。

動画の画面(「これを固有利得と呼ぶの。gmはVGSに対するIDの変化の割合で、次回くわしくやるわ。」の場面)
図 25

四国めたん

λを無視するとgm=K·Vov=1.6 mS。ro≈16 kΩとかけて、目安は約25倍ね。

動画の画面(「λを無視するとgm=K·Vov=1.6mS。ro≈16kΩとかけて、目安は約25倍ね。」の場面)
図 26

四国めたん

λも入れてモデルで計算すると、gmは約1.8 mSで、約28倍になるわ。

ずんだもん

roが小さいと、gm·roも小さくなって、増幅しにくくなるのだ。

四国めたん

ええ。だからLを短くした素子では固有利得が下がりがちで、回路の工夫が要るのよ。

9基板バイアス効果

ずんだもん

そういえば前回、基板端子はソースにつながっているとしたのだ。

動画の画面(「そういえば前回、基板端子はソースにつながっているとしたのだ。」の場面)
図 27

四国めたん

ええ。でもICのNMOSでは、基板は、まとめてグラウンドにつなぐことが多いの。

動画の画面(「ええ。でもICのNMOSでは、基板は、まとめてグラウンドにつなぐことが多いの。」の場面)
図 28

四国めたん

トランジスタを縦に積むと、上のソースは、グラウンドより高い電位になるわね。

動画の画面(「トランジスタを縦に積むと、上のソースは、グラウンドより高い電位になるわね。」の場面)
図 29

四国めたん

ソースの電位から基板の電位を引いた電圧がVSB。VSBが正だと、Vthが上がるの。

動画の画面(「ソースの電位から基板の電位を引いた電圧がVSB。VSBが正だと、Vthが上がるの。」の場面)
図 30

ずんだもん質問

VGSは同じなのに、どうしてVthが変わるのだ?

四国めたん

VSBが正だと、チャネルの下の空乏層、つまり動ける電荷のない層が広がるの。

動画の画面(「VSBが正だと、チャネルの下の空乏層、つまり動ける電荷のない層が広がるの。」の場面)
図 31

四国めたん

空乏層に残るイオンの電荷が増える分、チャネルを作るのに大きなゲート電圧が要るの。

四国めたん:これを基板バイアス効果、またはボディ効果と呼ぶわ。

動画の画面(「これを基板バイアス効果、またはボディ効果と呼ぶわ。」の場面)
図 32

四国めたん

式で書くとこう。VSBが大きいほどVthは上がるけど、増え方はゆるやかになるの。

四国めたん:γと2φFはプロセスで決まる定数よ。ここではγ=0.4√V、2φF=0.7 Vとしましょう。

動画の画面(「γと2φFはプロセスで決まる定数よ。ここではγ=0.4√V、2φF=0.7Vとしましょう。」の場面)
図 33

四国めたん

VSB=0.5 Vにすると、Vthは0.40 Vから約0.50 Vに上がるわ。

ずんだもん質問

VGSが同じでも、電流は減っちゃうのだ?

動画の画面(「VGSが同じでも、電流は減っちゃうのだ?」の場面)
図 34

四国めたん

ええ。VGSとVDSを1.2 Vに保っても、IDは0.72 mAから約0.54 mAに減るの。

四国めたん:ソースが接地されていない回路では、この効果を見込んで設計するのよ。

動画の画面(「ソースが接地されていない回路では、この効果を見込んで設計するのよ。」の場面)
図 35

10まとめ

四国めたん

まとめましょう。ピンチオフ点が動いて、IDがVDSとともに増えるのがチャネル長変調。

四国めたん:傾きの逆数がro。roが大きいほど理想電流源に近く、固有利得gm·roも大きいわ。

動画の画面(「傾きの逆数がro。roが大きいほど理想電流源に近く、固有利得gm·roも大きいわ。」の場面)
図 36

ずんだもん

それから、VSBが正だとVthが上がって、電流が減るのだ!

ずんだもん:右上がりは測定ミスじゃなかったのだ。roも求めて、レポートを書き直すのだ!

四国めたん

次回はgmと小信号モデル。ソース接地増幅回路で、利得がどう決まるかを見ていくわ。

動画の画面(「次回はgmと小信号モデル。ソース接地増幅回路で、利得がどう決まるかを見ていくわ。」の場面)
図 37

ずんだもん

最後まで読んでくれてありがとうなのだ!